二本松市の提灯祭りは、370年以上の歴史を持ち、日本三大提灯祭りの一つに数えられている華やかな祭りです。
私が訪れた10月4日は、一番の見どころとなる「宵祭り」の日でした。7つの町からそれぞれ太鼓台と呼ばれる山車が集まり、提灯の火で夜の闇を染め上げながら市内を練り歩く様は、非常に幻想的です。
一つの太鼓台には300以上の提灯が下げられているとのこと。また、提灯の火は、二本松神社の篝火を移したもので、電球ではなく本物の蝋燭を使った火なので、提灯の色合いも柔らかで美しいのです。
この山車には、かじ棒やブレーキがないそうで、角を曲がるときなどは、山車の4つの車輪に1人ずつついて、皆で力を合わせて向きを変えるため、熟練の技や勘が必要です。これも長年伝えられてきた伝統の技なのだと思います。
7台の太鼓台が一堂に会し、秋の夜空に赤々と火を灯す姿は、まさに圧巻でした。全ての提灯の数は、2000張りとも3000張りとも言われており、お囃子の音とも相俟って、夢幻の世界に迷い込んだような錯覚さえ起こさせます。
この祭りの起源は、二本松城主であった丹羽光重の「よい政治を行うためには、領民にまず、敬神の意を昂揚させること」という考えの下、領民なら誰でも気軽に参拝できるように二本松神社を建造し、やがて領民たちがそこで祭礼を営んだのが「提灯祭り」の始まりといわれているそうです。
厳かな雰囲気で行われる二本松神社での篝火(御神火)を松明に移す儀式や、太鼓台を一心に操る若連と呼ばれる若者たち、緩急自在なお囃子、あるいは太鼓台に見入る観客たちの姿を見ていると、「敬神の意を昂揚させる」という丹羽公の意思が、現代にも受け継がれているということを感じます。
また、福島での「食」も旅の楽しみの一つでした。福島県では数多くの素晴らしい日本酒がつくられていますが、今回この祭りで市内を歩く中で飲んだ「奥の松 あだたら吟醸」という酒も大変味わい深いものでした。地元二本松の奥の松酒造というメーカーの商品であることの酒は、世界的なワイン品評会であるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)において、本年の日本酒部門で最優秀賞「チャンピオン・サケ」に選ばれたものです。安達太良山からの良水に恵まれた二本松は、古くから酒造が盛んだったそうです。
夜空を染める提灯を見上げつつ、祭りの高揚感に包まれながら飲む酒は、また格別でした。